たべっ子どうぶつに畏怖する
大学図書館の地下1階、第1閲覧室で勉強道具を開げながらも、携帯をここ数時間ずっと触っている男がいる。わざわざ土曜に図書館へ来るという意識の高さを持ちながら一切勉強せず、1人でニヤニヤするという気色悪い時間の過ごし方で青春の貴重な2時間をドブに捨てた男がいる。
何を隠そう、この僕である。
「野菜生活を毎日飲んだら『野菜生活生活』になるんじゃね?」とか考えながらニヤニヤしていた。本当に気持ちが悪い。
しかし、僕は突然ニヤニヤを止めたかと思うと、メモ帳を開き、物凄い形相でフリック入力を始めた。心の中で僅かに芽生えた畏怖の念が、刹那のうちに急速成長し、5分を待たずして僕の脳内を支配したからだ。恐怖心を克服しようと一心不乱にキーボードを十字に切る。それはまるで神父の祈りのように。
何を恐れているか
それは
「たべっ子どうぶつ」だ。
ニヤニヤしながら食べていた、たべっ子どうぶつは、実は、社会を、文化を、そして人間を嘲笑していた。あんな微笑ましいお菓子が?と言いたい気持ちは分かる。しかし、一見優しそうな人間に限ってえげつない裏の顔がある。世の中とはそういうものなのだ。僕もバイト先の優しいオーナーがアウトレイジの現役住人だと知った時は膝から崩れ落ちた。そしてその衝撃で両膝の皿が8等分に割れた。だからみんなピザを切り分ける時は僕の膝の上で切ればキレイに8等分できるよ。
そういうわけで、たべっ子どうぶつにも裏の顔が存在するのだ。
僕は、ぼんやりと
ただぼんやりと、パッケージを見つめていた。
色とりどりの動物が、仲良く笑顔で並んでいる。
衝撃が走った。
どういうことだ
彼らの世界には
「弱肉強食」という概念は無いのか
社会的弱者と強者が共存し、手を取り合っている。なんという安寧なんだ。弱肉強食という、抗い難い、自然の摂理までもを乗り越えながら、お互いを尊重し、多様な価値観を認め合っている。ここに描かれているのは、そんな寛大な「心」を持った動物たちの生き様なのだ。
それに比べて人間はどうだ。富・権力・名声・地位・性。あらゆる欲望に打ち勝つことができる人間など恐らく誰1人としていないだろう。
欲望に惑わされず、そして価値観に順序をつけず、お互いを認め合う。これは、歴史の中で絶えず戦争や紛争を繰り返してきた人類に対する、彼らなりの皮肉なのだろうか。
皮肉
ビスケットの動物が46種類なのも
皮肉なのか
46
それはヒトの染色体数
奴らは、動物たちは
限りなく人類に近づこうとしているのか
違う
奴らは自分たちが格下だとは思っていない
配合されている栄養素を見てほしい。
骨を作るカルシウム、そして脳を活性化するDHA。
人類は骨無しであると、人類の頭脳はまだまだ未熟であると、そういうことなのか
そしてその表示をキリンに担わせるとは
動物たちは低俗な人類を「見下し」ており、人間知能が追いつくのを「首を長くして待っている」とでも言うのか
てか何なんだ
こいつ
こいつの形のビスケット無いじゃないか
人類を煽るためだけにパッケージに登場しているというのか
なんと
なんという屈辱
本当に人類を馬鹿にしている
これは
このお菓子はいったい何なんだ
あらゆるものが怖くなってきた
……ギンビスは
ギンビスという会社はどうなんだ
そこにも意味はあるのか
指の震えが止まらないまま検索すると、ギンビスの企業理念なるものがヒットした。
“ギンビスは、常に最高の真心をこめて、世界中の人々に美味しいお菓子をお届けするために「3つのI (国際性-International 独創性-Independent 教育性-Instructive-)」という企業理念を掲げています。”
なんという
なんということだ
3つのI
I + I + I = III
まだ分からないのか
思い出せ
私は、たべっ子どうぶつに描かれる動物は全46種類である、と言った
そして46とはすなわちヒトの染色体数であると、そう言った
話はそこで終わっていない。
ヒトの染色体は “23対” 46本である。
23 23
ここで問おう
アルファベットの23番目は何だろうか
そう
W
46種類 3つのI
すなわち、
23 23 I I I
WWIII
これは
ただのお菓子、
ただの動物ビスケットではない。
動物達が、人間を排除した世界を、真に平和なユートピアを、「第三次世界大戦」によって作ろうとしている。たべっ子どうぶつは、その陰謀を示唆する告示書であり、動物たちの宣戦布告だったのだ。
人間の子孫を絶やそうとする動物達、そう
「たべっ『子』どうぶつ」として…